皆さんはじめまして、広島東洋カープでピッチャーをしていました横山弘樹です。
今回はカープの攻撃の中心、西川龍馬という男について少し思い出話も込みでお話したいと思います。
彼といえば、”天才打者”。
今のプロ野球界で一番この言葉が似合うバッターではないだろうか。
今や世界と戦う鈴木誠也や、カープの大先輩山本浩二さん、ライバルチームのエース菅野智之さんにまで天才と言わしめるその所以とは……。
「どこがストライクなんか分からん」
“天才・西川龍馬”
彼とは同期ということもあり、入団当初からとても気が合う友達としてもよく交流していた。
そんなある日、なんの気なしに質問を投げかけたことがあった。
「龍馬ってなんでそんなに打てるの?」
僕はピッチャーでしたがバッティングも好きだったので打てるようになりたかった。
「いや僕も打てんよ。てかどこがストライクなんか分からんもん」
いやいや、ずーっと打ち続けてますやん。と思いながら
「ちなみに打席ではどんな感覚で打ってるの?」
と続けて聞いてみた。
ここで返ってきた答えに軽く5秒ほど思考が停止してしまった。
「バットが届くところは全部ストライクと思って打ってる。バットが当たらんとこはボール、みたいな。そんな感じっすね」
なにか聞いてはいけないものを聞いてしまったような気がした。
ワンバウンドの球をあたかも簡単にヒットにしたり、野球ファンから変態バッティングとまで呼ばれるほどの技術の高さはここから繋がっていたのかもしれない。
本人は軽い感じで話していたが、自分の感性をとことん信じていられる彼ならではの答えだなと、僕は数年前のこのことを今でも忘れられずにいる。
今となってはまた違った感覚でいるのかもしれないが、この当時よりも反応速度、身体の使い方、対応能力、心の整え方、全ての精度が抜群に高くなっており、そこに配球の読みやデータなどが加わることにより、進化が止まる事なく今もなお成長し続けている。
粋なことをよくサラッとしてくれる男
そんな龍馬ですが、ここで性格にも少し触れてみたい。
一見クールで、ヒットを打ってもあまり感情を表に出さない彼ですが、「今日もうごはん食べたー?」とか、「暇人さんなにしてんのー?」とか、食事の誘い方はいつもちょっと可愛い感じだったりもする。
そして、彼は粋なことをよくサラッとしてくれる男。
ある日、お気に入りの腕時計が壊れてしまい少し落ち込んでいた僕を見て、数日後に初登板のお祝いとして、手書きで「初勝利おめでとう」と書いた紙袋をこっそり部屋のドアノブに掛けて、壊れた腕時計と同じ腕時計をプレゼントしてくれた。
また、地方の野球場に応援に来てくれている小学生たちにバスからお菓子を配って、お菓子が大好きだった龍馬が自分で食べる分までも配ってしまっていたのに、とても嬉しそうな顔をしていた。その表情を隣の席から見ていて、龍馬はこうやって誰かを喜ばせることが本当に好きなんだなと思ったのを覚えている。
だからこそ、野球でも龍馬はファンのみんなを喜ばせようと頑張っているように見える。
クールなプレースタイルから、時おり見せるガッツ溢れるプレーやチームメイトへの人懐っこい姿にギャップを感じて龍馬の虜になった人たちも少なくないだろう。
そんな西川龍馬はまだまだ発展途上。ケガに悩まされたりもしてきたが、1年間を通して彼の実力を発揮できた年は、僕はまだないと思っている。
そして、しっかりやり切れたときには、なにか偉業を成し遂げるのではないかと期待を抱いてしまう。
今後も彼のワンプレーワンプレーに一喜一憂させてもらおうと思う。
そして……
今誰しもが気になるところ。
国内FA。
こればっかりはなんと言っても本人の人生。どうなるかは本人のみぞ知るというところで、本人が選ぶ幸せを共に願いたいと思う。
西川龍馬という野球人が、この先どのような野球人生を歩んでいくのか。
天才・西川龍馬の今後に目が離せない。
(※引用元 文春オンライン)