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菊池『帽子のつば真っ平ら問題』を考える、プロ野球選手の帽子が変化

2018年4月15日

菊池『帽子のつば真っ平ら問題』を考える、プロ野球選手の帽子が変化

4月3日のカープ対スワローズ戦。4回裏スワローズの先頭打者・中村悠平の打球はセカンドゴロになった……と書けば普通だが、菊池涼介がセカンドを守っていなければライト前ヒットになっていたであろう。その守備範囲の広さと捕球してからのスローイングの速さ、正確さは「忍者」と表現され、カープ鈴木清明球団本部長をして「守備を含めて100打点に匹敵するくらいの活躍」と言わしめる菊池の守備。

多くのカープファンを「本当はファインプレーなのに普通の守備に見える」というファインプレーのインフレ状態に陥らせた菊池の守備は今年も健在であった。そして今年も、菊池の帽子のつばは真っ平らであった。

プロ野球選手の帽子のつばの変化

1980年代の小学生だった私は、野球帽のつばは曲がっているのが当たり前と思っていた。小学生たちは買ってもらった帽子のつばをいかに自然に曲げるかということに腐心した。帽子のつばが平らな野球選手というのはその時代にも一定数存在していたが、それは「支給された帽子をそのまま被りました」という無作為の結果であろうと推測され、意図して真っ平らにしている選手は殆んどいなかったように思う。

時代は過ぎ、2010年代に入ってもほとんどの選手は帽子のつばを曲げて被っていた。この頃比較的「つば真っ平ら」に近い状態で被っていたのは当時ドラゴンズ監督の落合博満である。この帽子のつばに明らかな変化が生じるのが2011~2012年にかけてだ。加賀繁や筒香嘉智などベイスターズの選手を中心に、以前は曲がっていたつばが次第に平らになる現象が起こった。これは明らかに「意図された真っ平ら」であった。

現在でも12球団中「つば真っ平ら」率が高いのがベイスターズであるが、これには「つば真っ平ら」で被るのがかっこいいとされているニューエラ製の帽子をベイスターズが公式選手用キャップとして採用していることも影響しているかも知れない。ベイスターズのドラフト後の指名挨拶において、真新しい帽子を被った選手のつばの裏側にニューエラの象徴ともいえる丸いステッカーが見え隠れするのも秋の風物詩となっている。

菊池が「つば真っ平ら」になったのはなぜか

ところでその2012年、カープ入団初年度の菊池のつばはまだ曲がっていた。菊池のつばが真っ平らになるのは2014年以降である。新人時代から「つば真っ平ら」であった選手としてはホークスの森唯斗が記憶に新しいが、茶髪やヒゲなどと同様に「つば真っ平ら」は新人には手が出しづらい領域なのかも知れない。もっとも茶髪やヒゲが生活指導により排除されがちなのに対し、「つば真っ平ら」は指導のしようがないという違いもある。

では2014年から菊池が「つば真っ平ら」になったのはなぜなのか。巷ではここ数年、ヒップホップ系の若者を中心にファッションとして「つば真っ平ら」の帽子を被ることが流行しており、この流行が野球選手の「つば真っ平ら」に影響を与えているともされる。しかし菊池が好きな音楽は松山千春や浜田省吾だというし、ファッション性を重視しての導入とは考えづらい。

本文を参考にA〜Cの菊池涼介を古い順に並べ替えよ
【問】本文を参考にA〜Cの菊池涼介を古い順に並べ替えよ ©オギリマサホ

実のところを言えば、以前菊池が出演したテレビ番組において何度か「つば真っ平ら」について触れられている。「視野が広がるから」というのがその答えであり、帽子のつばで射撃の照準を合わせているというテレビアニメ『ルパン三世』第2シリーズの次元大介を思い起こさせる職人気質の回答である。そういえば、菊池のもみあげから一直線につながったヒゲも次元を彷彿とさせる。

しかし果たして理由はそれだけなのだろうか。なぜなら528という二塁手シーズン補殺の日本記録を樹立し、ゴールデングラブ賞を受賞した2013年には菊池のつばはまだ曲がっていたからである。もっとも「つば真っ平ら」を導入した2014年にその自身の補殺記録を塗り替え、その後もコンスタントに成績を残していることを考えれば「つば真っ平ら」は一定の効果を挙げているとも言える。

「真っ平ら」のきっかけとなった先輩とは?

ところでカープには「つば真っ平ら」の選手は少ない。菊池の他はジャクソン、バティスタ、メヒアといった外国人選手が主である。逆につばの勾配が急な選手として真っ先に思い浮かぶのがマエケンこと前田健太である。カープ在籍時のマエケンの急勾配のつばは譬えて言うなら合掌造り。2016年にドジャースへ移籍してからはつばが次第に緩やかになっているマエケンだが、彼を慕ってシーズンオフに合同自主トレを行う「チーム・マエケン」の選手、特に中田廉らに急勾配つばスピリットは受け継がれている。一方「いつまでもマエケンさんに頼っていてはいけない」と「チーム・マエケン」からの独立を宣言した大瀬良大地のつばは、昨シーズンに比べて若干勾配が緩やかになっているように見える。

対してカープの「つば真っ平ら」は菊池が草分けになるのかと考えた時、ある選手の顔が思い浮かんだ。

2015年にカープから戦力外通告を受けたサイドスロー右腕、池ノ内亮介である。菊池にとっては中京学院大学の一学年先輩にあたる。育成選手契約から支配下登録され、2014年には一軍登板を果たした池ノ内。その池ノ内の帽子のつばが真っ平らであったのだ。菊池は池ノ内について、以前インタビューで「僕がプロにいけたのは、半分以上は池ノ内さんのおかげだと思っています」(『球団公認 広島東洋カープ YOUNG HEROES』宝島社/2015年)と語っていた。池ノ内目当てで大学を訪れたスカウトの目に菊池が留まり、プロへの道が開かれたというのだ。

その言動などから自由奔放なイメージを持たれがちな菊池であるが、実は周囲の人間や先輩に対して細やかな気遣いをする人物でもある。前述の菊池の次元ヒゲは、廣瀬純(現・カープ一軍外野守備・走塁コーチ)に勧められたことから伸ばすようになったという。また昨シーズン、菊池の帽子のつば裏には自身の背番号「33」の他に「38」という数字が書かれていた。胃ガンからの復帰を目指す赤松真人の背番号である。菊池が折に触れて赤松に連絡を取り、さりげなく励まし続けていたことも知られている。

このような先輩思いの菊池だからこそ、あの「つば真っ平ら」には機能的な目的だけではなく、惜しまれながらチームを去った先輩・池ノ内への敬愛の念が込められているのではないか、とふと考えてしまうのである。(オギリマ サホ)

(※引用元 文春オンライン

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