10月18日から開幕するセ・リーグのCSファイナルステージ(甲子園)。リーグ王者・阪神の対戦相手に広島が決まったが、広島OBで元監督の達川光男氏に勝敗の予想を聞くと、「さすがのカープOBでも、あまり大きなことは言えんわね。今回の下剋上は至難じゃと思うよ。可能性はゼロではないが、果てしなく低いよね」と弱気な答えが返ってきた。
DeNAとのファーストシリーズを2連勝して勝ち上がってきた広島。2試合とも新井貴浩監督の“神采配”が当たりまくっての勝利だった。初戦は1点を追う8回、ノーアウトのランナーが出たところで代走の羽月隆太郎を起用。送りバントで二塁に送った後、初球で三盗を成功させ、菊池涼介のスクイズで同点に追いついた。延長に突入すると先発要員の九里亜蓮を投入し、秋山翔吾がサヨナラ打を決めた。
第2戦は同点の8回、無死満塁の場面で代打・田中広輔が決勝打を決めた。2戦続けて僅差のゲームを新井采配が勝利に導いたと言っていいだろう。全員野球のスモールベースボールを貫いて挑戦権を獲得。新井監督は「本塁打を20本打てる打者がいない広島の野球はこういうかたち」としたうえで、「甲子園では今年のスローガンでもありますが、がむしゃらに全員野球で高校球児のように戦っていきたい」と意気込みを述べている。
達川氏は「勝負事には“運・鈍・根”が必要とされる。人に恵まれる運、周りに流されない鈍感力、そして根気、この3つが求められるが、新井監督はそれを持っている」と評価するものの、「新井監督には勢いがあって失うものがないが、それ以外はあまりいい材料がない」とバッサリ。そしてこう続けるのだった。
「9月の天王山と言われた甲子園での阪神対広島の3連戦(9月8~10日)と同じような展開になるんじゃない。広島は床田(寛樹)、森下(暢仁)、九里と表ローテを立てて、村上(頌樹)、大竹(耕太郎)、伊藤(将司)に3連敗。これでマジックが一気に7も減った。阪神には1勝のアドバンテージもあるし、地元の利もある。勢いのカープ、実力のタイガースだよね。タイガースが初戦に勝てば、ハンデ(アドバンテージの1勝)もあることだし一気にいくじゃろう」
コンビニ店員から「阪神ファンに気をつけて」
今回はいつものカープ愛に満ち溢れた達川節が聞かれない。その裏にはどんな思いがあるのか。実は、達川氏は9月30日のマツダスタジアムでの阪神対広島戦の解説で、「阪神は広島に下剋上される」と繰り返したことで、SNS上で阪神ファンからバッシングを受ける事件があったのだ。その真意についてこう振り返る。
「カープと横浜が2位争いをしている状況だったのに、対横浜戦の時はフルメンバーだった阪神が、カープ相手には先発が高卒ルーキーの門別(啓人)を起用し、スタメンも大山(悠輔)、佐藤(輝明)、中野(拓夢)以外は控えを使った。それでミスばかりだったので、“こんな野球をやっていたら足をすくわれますよ”と本当のことを言ったんよ。
それで翌日、コンビニにデイリースポーツを買いに行くと、店員から“阪神ファンに気をつけてください”と言われるけえ、何のことかと思ったら、ありがたいことに阪神ファンが熱く反応してくれたそうで。嬉しいことじゃね。無視されていたらつらいけえ。
岡田(彰布)監督まで怒っとるとも聞いたけど、担当記者に聞いたらそんなことはなかった。本人も解説者時代に本音トークしているから、何とも思っていないらしいね。岡田監督とは高校時代からずっとライバルだったし、阪神では一緒にコーチをやった仲。この日(9月30日)も1時間近く話し込んだが、野球をよう知っている。
解説はカープファンにも少しは希望をもってもらわないといけないからね。ただ、カープファンには喜ばれたけど、おかげで大阪の仕事が2本も減った(苦笑)。“評論家を引退しろ”という阪神ファンの声もあるそうじゃけど、プロ野球にクライマックスシリーズがあるように、評論家の敗者復活戦を目指して頑張りたいと思います」
正捕手・坂本の成長
そんな経緯があったため、今回は“贔屓目なし”の本音解説を聞いた。達川氏の岡田阪神の高評価は続く。
「今年のタイガースは強い。野球は走攻守というが、走という面では盗塁王の近本(光司)と次点の中野(拓夢)がいる。カープのレギュラーで足が使えるのは野間(峻祥)ぐらい。羽月は控えだからね。
守りもノイジー、近本、森下(翔太)と外野は鉄壁だし、内野も守備が心配なのはサードの佐藤(輝明)ぐらい。機動力野球がカープの十八番だが、岡田タイガースにお株を奪われとる。これじゃ勝負にならんよ」
そして、達川氏が最も評価しているのは正捕手の坂本誠志郎の成長だという。
「坂本のリードがようなったよね。捕手のチーム内ライバルといえば近鉄の“有梨(ありなし)”が有名だった。梨田(昌孝)さんがレギュラーになったのは、有田(修三)さんの骨折がきっかけだった。梨田さんは試合に出るほどに味を出してきたが、梅野(隆太郎)が骨折して坂本がマスクをかぶるようになった今年の阪神によう似ている」
広島は先発の大瀬良大地や森下が調子を落としているうえ、矢崎拓也がコロナ特例で登録抹消となった。セットアッパー不在で後半勝負ができないという。広島OBとしてカープファンが希望を持てるトークも、とお願いしたところこう話した。
「強いていえば、昨年まで阪神のバッテリーコーチだった藤井(彰人)ヘッドが阪神を知り尽くしているということ。作戦コーチも兼ねているので、カープがファーストステージの横浜戦で見せたような羽月の三盗とスクイズみたいな思い切った作戦を奏功されるかがカギを握る。
あとペナント終盤に調子がおかしくなった抑えの岩崎(優)がどう調整してくるか。阪神の不安材料はそれだけ。打てなくても点が取れる打線は脅威。岡田監督も2005年のロッテとの日本シリーズでの4連敗を経験しているので、短期決戦の調整の難しさは身をもって知っている。フェニックスでいい調整ができているようだし、試合から離れている間の対応もわかっている。カープとの差はシーズン中の11.5ゲーム差がそのもの実力の違い。岡田阪神は手強い」
達川氏の掛け値なしの本音解説。新井監督の奮起につながるのだろうか。
(※引用元 NEWSポストセブン)