7月4日の対スワローズ戦、初回からカープ自慢のタナキクマルが躍動した。まず1番・田中広輔が東京ヤクルトの先発・ブキャナン投手の初球を叩いてレフトスタンドに打ち込む先頭打者本塁打。2番の菊池涼介が左中間を破る二塁打で続くと、3番・丸佳浩はセンター前ヒットで菊池を本塁に迎え入れる。電光石火の速攻、イキナリ2点を奪ってみせた。
格好いいなあ!これこそカープらしい攻撃だと思った。そう思ったあと、アレ?なんでこういうのがカープらしいと感じるのだろう?このスピード感、イキナリ感ってなんだっけと考えたら高橋慶彦にさかのぼる。
衝撃的だった1番・高橋慶彦の出現
1980年、カープが2年連続3度目のリーグ優勝、そして2度目の日本一に輝く年、私は大阪の芸術系大学に入学し、学校に提出する為の手描きアニメを作っていた。
そのストーリーは「甲子園球場での阪神ー広島戦、試合は一方的にカープがリード。逆転を狙う阪神・中西監督は最後の切り札、巨大ロボット“メカ掛布”を繰り出すが、メカ掛布は球場にスプレーを吹き付けて煙だらけにする。球場は大混乱……」というギャグアニメだった。
当時掛布さんが殺虫剤のCMに出演していたのをネタにしたパロディだ。学校にも関西の人が多かったためウケるだろうと阪神中心に描いたが(実際ウケた)、実はカープの選手をアニメで動かしてみたい、というのが制作の動機だった。
初球を打ってハヤテの如く塁間を駆け抜ける高橋慶彦、低く腰を落とし大きくタメを作るフォームの大野豊、チャンスで必ず打つ頼もしい絶対主砲・山本浩二……80年代のカープは強いだけでなく、動きやキャラクターに個性のある選手が何人もいた。
動きの個性が豊かだったのはカープだけでなく球界全体がそうだったのかもしれない。アニメにして動かしてみたくなる選手が多かった。特に高橋慶彦がそうだった。
現実離れしたヨシヒコの“アニメ感”
一番バッター高橋慶彦の出現は衝撃的だった。村上龍氏はその驚きから小説「走れ!タカハシ」を著した。「ヨシヒコ以前」の名トップバッター福本豊、柴田勲らも素晴らしいスピードとパワーを兼ね備えていたが、ヨシヒコは何かが違っていた。何というか現実離れしたような格好良さ、まあなんというかアニメキャラを見るような新鮮さ、現実離れ感があった。
今日の大谷翔平を想像してもらえるとちょうど良いかもしれない。「機動力野球」という言葉は古葉監督時代のカープから広まったが、ヨシヒコはその象徴だった。僕にとって、カープらしさを象徴するのがヨシヒコだったと思う。
2018年のカープを見ると、ヨシヒコの位置にタナキクマルがいる。一人一人というより、3人で1人のヨシヒコだ。3人でようやく高橋慶彦1人分、という意味ではない。三位一体、あるときは1人、あるときは3人、変幻自在のヨシヒコが塁上を駆け巡る。まるで合体ロボかスーパー戦隊。
1980年のヨシヒコに感じたアニメ感がより進化してタナキクマルに継承される。ああこれぞカープだなあと思う。ジーンとなる。
さて、タナキクマルがヨシヒコの進化形だとすると、鈴木誠也は山本浩二の進化形になるのだろうか?誠也自身はそれを目指してはいないだろうが、私個人のロマン課題として未完の大器セイヤとコージを重ねてみたい。いよいよ夏本番、今年も私の夏の夢はカープとともに見る。(赤井孝美)
(※引用元 文春オンライン)