広島が難題に挑もうとしている。2019年、セ・リーグではV9の巨人以来2球団目(3度目)、両リーグでも4球団目(6度目)の4連覇がかかっている。
ただ、シーズン終盤に引退を表明していた新井貴浩に続き、主力の丸佳浩がFAで巨人へ移籍し、退団したブラッド・エルドレッドを含めれば、主力野手が3人も抜けた。4連覇というミッションはさらに難しくなったといえる。
加えて、3連覇中の広島を止めるべく、他球団は補強を進める。丸を引き抜いた巨人は、オリックスの中島裕之、マリナーズの岩隈久志、西武の炭谷銀仁朗と、原辰徳3次政権を前に大補強を敢行した。
また矢野燿大(あきひろ)新監督を迎えた阪神も、オリックスから西勇輝、中日からオネルキ・ガルシアを獲得するなど積極的な補強が目立つ。
一方で広島は、主力野手が抜けても、大きな補強は見られない。外国人選手も投手中心。10月のドラフトも即戦力を重視せず、素材型の指名が中心だった。残す補強といえば、巨人へ移籍した丸の人的補償が誰になるのか……くらいだろう。
ただ、チームを指揮する緒方孝市監督は冷静に現実を受け止める。
「うちはそういうチームだから。1年でガラッとチームが変わるようなチームじゃない。ここで勝って、いろんな方から、ファンから評価をしてもらう。そのためにも結果を残さないといけない」
的確なドラフト戦略と、中期的な若手育成の両輪でチームを3連覇に導いた。巨人の大型補強などは今に始まったことではない。毎年チャレンジャーとしてシーズンに臨んだ結果が、3連覇につながった。今回もまたチャレンジャーのつもりでいる。
ただ、自信がないわけではない。周囲の不安の声をかき消すように、指揮官は語気を強める。
「25年ぶりに優勝した時もマエケン(前田健太/ロサンゼルス・ドジャース)という絶対的なエースが抜けて勝ち取った。連覇にしても、黒田(博樹)という精神的な大きな柱がいなくなったあとでの連覇だった」
25年ぶり優勝を果たした2016年は、鈴木誠也が中軸に成長し、1年目の岡田明丈も貴重な駒となった。連覇した2017年は、3年目の薮田和樹や安部友裕、アカデミー出身のサビエル・バティスタが台頭。3連覇の2018年は、4年目の野間峻祥(たかよし)や高卒2年目のアドゥワ誠、またもアカデミー出身の支配下選手1年目ヘロニモ・フランスアが結果を残した。
誰かが抜ければ、新たな選手が台頭する。チーム内の代謝を活性化させることで、ピンチをチャンスに変えてきた。そういった意味でも、2019年は広島の真価が問われるシーズンとなりそうだ。
そんな新シーズンで期待されるのは誰か。まず丸が抜けたセンターには、2018年に飛躍のきっかけをつかんだ野間が有力視される。指揮官が「丸が抜けても外野の守備力は落ちないと思っている」という言葉からも、野間の信頼は厚い。
あとは打撃でどれだけの数字を残せるか。「外野は打てないと使ってもらえない」と本人は危機感を口にする。
それだけに2018年12月上旬のハワイへの優勝旅行を辞退。「(前年優勝旅行へ行って)オフが短く感じたから」とトレーニングに時間を充てた。
今オフは、丸がいない室内練習場でひとり打ち込む姿が見られた。肉体強化に重きを置いた昨オフから、今オフは技術練習の比重を高めた。
球場の施設を利用できるギリギリまでトレーニングを行ない、オフの間通い続けたジムでも自ら追い込んだ。「来年やらなければ終わり。それくらいの気持ちでやらないといけない」と悲壮な覚悟がにじむ。
6年連続ゴールデングラブ賞受賞の丸に劣らない守備力は持っている。センターの穴を埋めつつ、バッティングでも上位打線を任せられるだけの成長を示したい。
2018年は試行錯誤を続けながらも長期スランプはなく、規定打席到達にたどりついた。
「もちろん周りから見てもらった客観性も必要。ただ、そこに自分の感覚がなければ、軸もなくなる。(自分を)見失ってしまう」
自分の感覚を探りながら、飛躍のきっかけをつかんだ。そこで得た”自分の感覚”を今オフも確認するように、ひとりバットを振り込んでいる。
守の穴を野間が埋めれば、打の穴を埋めるのは西川龍馬に期待したい。
打撃は誰もが認める技術を持つ。2018年も4月末に打率1割1分8厘の打率で二軍に降格しながら、自身初めて100試合に出場し、安打数は100本を突破。打率も3割をマークした。入団から打撃成績を上げ、試合に出れば打てることは証明した。
ただ、一方で主戦場とした三塁守備でのミスが散見され、シーズン終盤は代打に回った。打力を生かすため、秋季キャンプでは外野に挑戦。守備の負担が減ることで持ち味を発揮しやすくなるかもしれない。
また出場数を増やすことで精神的な成長も期待できる。主力選手は「試合に出続けることで意識が変わると思う。試合に出続けると中途半端なことはできなくなる。言動が変わってくると思う」と期待する。すでにチームの主力となった鈴木と同世代。打撃だけでなく、近い将来にはチームを引っ張って行く役割も期待される存在だ。
天才肌でやってきた西川は今オフ、初めて他球団の選手と合同トレを行なう。2017年11月のU23でチームメイトとなった日本ハムの近藤健介と松本剛とコラボ。同世代の実力者とともに打撃論をかわし、技術を吸収することで打力はさらに磨きがかかるに違いない。
“ポスト丸”を期待される2人が力を付ければ、2年連続MVPの穴は埋まるかもしれない。ただ、野球は「100-3=97」でも「1+1=2」でもないように、単純な計算では成り立たない。
東出輝裕打撃コーチは若手の台頭によるさらなる戦力の底上げの必要性を説く。
「西川とまっちゃん(松山竜平)を同時にスタートで起用したと考えると、代打の1番手がいなくなる。新井さんがいれば、迷わず西川をスタメンで使っていいかもしれないけど、難しい判断になる。そういった意味では、丸の移籍と新井さんの引退が重なったことは痛い」
西川が”ポスト丸”となれば、代打の切り札にもなれる”ポスト西川”「が必要となる。新井が支えた精神的支柱という無形の影響力もある。広島が挑む2019年の頂までの道のりは、これまでにないほど険しく高いものとなりそうだ。
(※引用元 web Sportiva)