3年連続リーグ制覇で人気絶頂の広島カープだが、超人気ゆえの問題が発生した。これまで先着順だったチケット販売を抽選式に変更。発売前からの徹夜組が大量に発生することや、転売防止のための対策だったが、これが裏目に。抽選券配布日の2月25日にマツダスタジアム周辺に5万人が殺到し、周辺の交通機関に影響を及ぼしかねない事態に。横浜DeNAベイスターズ初代球団社長であり、スポーツビジネス改革実践家の池田純氏は広島カープだけではなくプロ野球界全体の現在のチケット販売の根本的構造課題に言及した。
加熱する人気ゆえのチケット問題。カープ球団としては、転売によって不当に高いチケットを購入するファンが出ないように、抽選式を導入したというのだが……。
「カープという球団は生真面目でファンを重視する、人気が出ても奢らない体質の球団で、一生懸命ファンのことを考えたのは間違いないですし、転売対策としていろいろ知恵をしぼったのだと思います。でも抽選券を手渡しして、購入者に誓約書を書かせるだけの性善説では、あまりにもアナログで根本的な防止策にはならない。これだけデジタルが普及して、ネット上に色々な流通経路がある時代にアナログを基本とした構造で対応するのは無理があります」
実際、今回抽選方式にしたにもかかわらず、フリマサイトにはすぐに外れ抽選券や転売チケットが売買されていたといわれている。今回のカープは、人がここまで集まる事態になることが読みきれず警察まで出動したことで大きなニュースになりましたが、転売はどの球団も抱えている問題だ。
「私も球団社長時代ずっとどこかに従来の延長線上にあるチケットのシステムや構造の課題を孕んでいて、近い将来のアナログからデジタルへの根本的な構造転換の必然性を実感していましたが、当時はそこまで対応不能な事象にまで発展したり、社会問題化することはありませんでした。このニュースを見聞きして、より一層そんなタイミングが迫っているように感じました。デジタル全盛の時代に紙のチケットですべてをコントロールするのは限界があるんです。現在は紙のチケットを球場の入り口でモギリするという仕組みがまだまだ主流。その構造を根本的に見直し、デジタルに転換しないと、根本的解決は難しいのではないでしょうか」
キャッシュレス化、ペーパーレス化が進み、空港のイミグレーションなどでも顔認証を導入する時代。スポーツイベントのチケットもいずれはデジタル化されるだろう。だが、現在のプロ野球界で同じことを12球団一斉に対応しようとなると、誰かがそのリーダーシップを取って、構造改革を断行しなくてはならないだろう。サッカーのJリーグとは異なり、野球はリーグ全体の統括をするNPBがそこまでの統括力やリーグビジネスを牽引する存在でなく、あくまで個別の各球団が強い構造。一方各球団で対応できることは限界があり、協調性が重視され、認識や課題意識もバラバラな中で、一斉に全球団に関係する構造を改革するのは相当に困難なことなのではないのだろうか?
「一般論として、リーグビジネス的な全球団に関わる構造改革は、皆が困って、皆が社会問題の的になり、皆でやろう・やらなくてはならない、となるような、なかなかに切羽詰ったタイミングでもこない限り難しいんです。もちろんインフラを変えるわけですから、金銭的、物理的、人間関係、協力会社関係において、相当なスイッチングコストを要するのは自明の理。それでもやらなければならないタイミングが目の前にきているのではないでしょうか」
協調性重視の既存の世界においては、結局善良なる独裁者的な誰かが引っ張り断行しないと、構造改革が進んでこなかったのは歴史が証明している。うまくいっているときはいいが、根本から、構造から、非連続でものごとを改革するというのは、協調性重視では難しいものがある。軋轢を覚悟し、協調性は事後につくっていくという意識でないと解決は遠いだろう。
「スタンフォードの先生の分析を聞いたことがあるのですが、シリコンバレーで創業オーナーが自分との協調性重視の管理調整型リーダーを指名し、衰退した時期があった。でもいち早くその危うさに気付いて、局面を打開したのは常識や前例にとらわれないパイオニア型のリーダーに託す潮流に、保身や協調性などに囚われずに転換できた企業だったそうです」
協調性を重視する日本ではどうしてもリーダーに管理調整型の、いわゆる“マネージャー”的な人間を置きたがる風潮がある。前のリーダーが次のリーダーを指名することが多いのが日本の実態であり、そうなると必然的に自分の理解を超えた人材ではなく、コントロール可能な人材を指名しがちになってしまわざるをえない。改革を成し遂げるためには、まずはそこから見直さないといけないとも言われることが多い。特にスポーツ界は限られたチームやクラブの中でのサロンのような世界のことが多く、どうしても「協調性」が先行する。大きな改革をなしとげるには、これまでと違う考え方が必要なのは明らかだが、現状のスポーツ界の文化に相反するものがあるがあるのは確かだ。
「インフラがどの世界でもある程度確立してしまっている日本においては、スイッチングコストはかかってしまうのは必然です。が、いずれチケットは確実にほぼ完全にデジタル化されます。デジタル社会を牽引する若いリーダーを抜擢して非連続に、構造改革していかないと、その場凌ぎの対応、積み上げ式、現状から考えうる対策では、いずれ本当に立ち行かなくなる可能性があるのではないでしょうか」
より楽しく、よりフェアに、より便利に。チケットのデジタル化は、スポーツイベントが人気を呼び、プロ野球の観客動員数も伸びている今だからこそ、手をつけるべき問題なのかもしれない。
(※引用元 VICTORY)