どんなときもチームが一番
前回に引き続き、“スーパーアッちゃん”こと會澤翼選手の話です。キャッチャーとして、選手会長として、今年もチームをしっかりまとめてくれました。
私も日本プロ野球選手会会長(選手長)を4年やらせていただいたことがあります。多くの人たちをまとめ、何か成し遂げようとすることは簡単なことではありません。
上に立つ人間として私が大切だと思うのは、“言葉じゃなく行動すること”です。考え出すとどんどん難しくなっていくので、シンプルに考えて、まずは率先して自分がやる。姿で示すことが大切だと思っています。
アツはしっかりと率先してできています。今年も若い選手がどんどんと出てきましたが、行動で示すアツの姿はいい見本になっていたと思います。また、アツを筆頭に優しく接してくれる先輩たちのおかげで、一軍に溶け込むのも早かったのではないでしょうか。
当たり前のことですが、率先するというのは、大きな声を出して、自分の思いばかり伝えることではありません。アツは常に周りのことを考えて行動しています。そして、行動とともに発する言葉にもそれが表れています。だから、言葉にもパワーが宿るのでしょう。
4月19日のDeNA戦(マツダ広島)で延長10回一死満塁からサヨナラ打を放つと、お立ち台で、
「選手は1試合もあきらめていない。必ず巻き返します」
と宣言しました。チームは開幕スタートダッシュに失敗。ファンからも心配の声が聞かれる中、アツの言葉は、チームにも、ファンにもあらためて力を与えました。チームは19日以降も連勝を続けています。チームの雰囲気がガラッと変わった瞬間でした。
どんなときもチームのことを考えて、自分さえよければいい、なんてことはまったくない。みんなで頑張って、みんなで喜ぼうというタイプの選手なんです。
そういえば、3連覇のビールかけでは、いつも大好きなお酒を浴びて人一倍はしゃいでいたなあ(笑)。さすが“スーパーアッちゃん”!
これからも変わることなく
アツとはシーズン中だけでなく、2017年オフシーズンから鹿児島・最福寺での護摩行も一緒に行ってきました。アツのほうから「連れていってください」と頼んできたのですが、実は最初は断ったんです。「お前、キツいからやめとけ」と。でも、根性がありますね、彼は。ひるむことなく言ってきたので、連れて行くことにしました。
石原もそうでしたが、アツも何かを変えたかったんじゃないかと思います。護摩行をしても、体が強くなったり、野球がうまくなるわけではありません。ただ、あれだけキツいことをやり抜いたことで、気持ちが確実に強くなります。だからこそ、その後も続けているのだと思います。
しっかり者のアツですが、実は冗談も好きだし、お酒を飲むのも大好きです。やるときはやる、リラックスするときはリラックスする。いい意味でONとOFFがきっちりしています。ただ、ちょっとOFFが過ぎることもありますがね(笑)。
そんなアツの選手としての魅力の1つが、勝負強い打撃でしょう。今年もですが、3連覇中は特に光りました。打席での“キメ”と言うか、割り切りみたいなものができるんですよね。配球を読んだり、コースを読んだりして、勇気を持って決めることもできるし、張ることもできる。キャッチャーらしいなと思います。
キャッチャーは決して派手なポジションではないと思っています。守備に関しても、二遊間などとは違って、動きも少ない。ですが、どのポジションよりも経験値が重要視されるのがキャッチャーです。
アツの場合は、それに“打てる”という要素が加わっています。打てる捕手の存在というのはチームにとってすごく大きいものです。
なので、今シーズンが終了し、FA権を取得したアツがどんな決断を下すのか、気になるところではありました。私も07年オフ、同じ悩みに直面しました。当時の私は、悩み過ぎて何に悩んでいるか分からなくなるくらいでした。だから、アツの気持ちもすごく分かります。
アツもたくさん悩んだと思います。私としては、行使するにしてもしないにしても、一度きりの野球人生。本人の思うように進んでほしいと思っていました。
10月10日、カープにとってはうれしいニュースが届きましたね。『會澤翼、国内FAの権利を行使せず、広島残留を表明』
会見に臨むアツの表情は、実にすがすがしいものでした。
今のアツに対し、別に何かを変えてほしいとか、そういったことはまったくありません。今までどおり、チームのためを第一に考え、率先して行動していけば、みんなアツについていくと思います。来年も、攻守に、さらにはグラウンド外でも、チームを引っ張っていって、再び優勝、日本一を目指して戦ってほしいなと思います。
ただ、もともとやんちゃでイケイケドンドンの性格ですからね。會澤選手、オフにあまり羽目を外し過ぎないで、来シーズンも頑張ってください!
(※引用元 週刊ベースボール)