カープに鯉

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あれから75年…この時期だからこそ考えたい、広島にカープある幸せ

2020年8月11日

あれから75年…この時期だからこそ考えたい、広島にカープある幸せ

当コラム公開日の前日、8月6日。この日は、自分の故郷でもある広島にとって1年で最も重要な日。皆さんもご存知のとおり、いまから75年前の1945年(昭和20年)8月6日、第二次世界大戦の中で人類史上初となる核兵器・原子爆弾が投下され、広島の街は一瞬にしてすべてを失いました。こういう書き出しだと「なんか話が重そうだな」と思う方もおられると思いますが、今回は広島とカープについての大切な話です。どうか最後まで読んでください。

あらためて噛み締めたい“プロ野球が行われている幸せ”

2020年6月19日、待ちに待ったプロ野球がスタート。新型コロナウイルスの影響で「最悪の場合、今シーズンは野球が無いんじゃないか?」という声もあがる中、NPBを始め、さまざまな方の努力によって無事に開幕。カープは佐々岡新監督のもと、記憶に新しいあの歓喜、あの喜び、あのビールかけ、つまり「優勝」に向けて走り始めました。6月のカープは5勝3敗1分として勝ち越し。7月はもう少し加速しようと思っていたら……あれ? 加速というか……減速? あれ? なんか負ける! いっぱい負ける! 6月19日に私が書いたコラムでは「開幕ダッシュ・鯉の季節・首位独走」と景気のいい文字を並べていたのに、気づけば最下位に何度も転落するようなチーム状況になってしまいました。

7月に入ったあたりからカープファンのSNSは大いに荒れ始めます。先取点を取られただけで「またか」。まだ中盤なのに逆転されると「勝てる気がしない」。リードしていても「抑えが不在だから無理」。もっと言えばスタメン発表の時点で「佐々岡、なんだこの打順は」。これらはあくまでも例で、ここに改めて書くことができないような罵詈雑言も山ほど。勝てないストレスが怒りとなって噴出した、まさにそんな感じですよね。もちろん自分も怒りを表に出したことは多々あります。ただ、そういう中で、ふとした瞬間、現状に対する「違和感」を抱くようになったのです。

たしかに弱い。悔しい。だけど、試合に勝ちと負けがあるのは当たり前のこと。強いに越したことはないけど、でも、でも、それよりもまず今年は「‪コロナ禍‬でプロ野球が行われている幸せ」。それが根本にあって、むしろいまはまだ、その日々を大いに喜んでいい時期なんじゃないかと。8月に入ってから、そんな自分の思いはさらに加速していきました。‬‬

冒頭で書いた8月6日。75年前のこの時期、広島には「未来」も「希望」もなかったのです。焼け野原になった街に残されたのは「絶望」の二文字だけ。しかし、広島は負けなかった。なにより広島県民には不屈の強さがあった。原爆投下からわずか4年後に「県民みんなのチームを作りたい」と、チームを地元自治体の出資でまかなう計画を打ち出し、オーナー企業を持たない日本唯一の市民球団を広島に設立。それは、まだ街のいたるところに瓦礫が残り、その日を生きるだけで精一杯という人々が多くいる中でのこと。広島は球団設立と共に「復興と蘇生」に向けて動き始めたのです。

カープはつねに「経営難」という問題を抱え、選手をまともに集めることすらできず、何度も何度も解散の危機に襲われました。しかし、その危機につねに反対の意を唱えていたのが他ならぬカープファン、つまり我々の先輩たちだったのです。選手に給料を払わせるため、選手に満足のいくご飯を食べさせてあげるため、カープファンは自分たちが苦しい生活をしていてもカープに手を差し伸べました。球場の入り口では「カープ救済基金」という文字が掲げられ、球場に訪れたファンや通行人が寄付をする。かの有名な「たる募金」です。

「この200円でカープを助けてください」

こんな話もあります。当時、野球選手を目指していた9歳の少年。その少年がカープの初代監督である石本秀一と出会った時、彼は貯金箱を割り、グローブを買うためにコツコツと貯めていた貯金200円を石本監督に手渡しました。そんな大切なお金はもらえないと断る石本監督に対し、少年は「これはカープの選手になった時に使うグローブのための貯金です。カープが無くなるならグローブはいりません。この200円でカープを助けてください」という話をしたそうです。

当時の物価を調べると、うどん、そばが15円ほど。わずか9歳の子どもにとって、そのお金がどれだけ大切だったか。石本監督は少年に何度も頭を下げながら、その大切なお金を受け取ったそうです。そう、広島からカープが無くなることは「復興の光を消す」こと、郷土の未来を諦めることに他ならなかったのです。

こうして誕生したカープはファンの期待を一身に背負って闘いましたが、創設1年目の成績は41勝96敗1分。なんと優勝チームから59ゲーム差を付けられての最下位でした。それでもカープは広島の希望。トランペットを使った鳴り物での応援、ジェット風船、選手ごとの応援歌。のちに他球団ファンが追随することになる様々なアイデアでカープファンはチームを盛り上げました。また、原爆投下から12年が経過した1957年に旧広島市民球場が完成しナイター設備が整った時、まだ復興の途中で夜は暗闇だらけだった広島の街で、そのナイターの光は天まで高く伸び、まるで鯉が滝を昇るように見えたと言います。過去のコラムでも書いたことがありますが、それを見た祖母は「原爆で犠牲になられた天国の人たちに試合を届けるような美しい光に見えたんよ」と私に伝えてくれました。

8月6日を思う時、そこには「カープの物語」があります。もし広島の人やファンが諦めてカープが無くなっていたら、いま、私たちはどうなっていたでしょう。4年前、あの25年ぶりの優勝、そして3連覇。これほど素晴らしい人生があるのかと喜び、歓喜で泣いた日々。それらを考え、この時期になると、私は「もっと前向きにカープを応援しよう」と思うのです。‪もちろん、カープがあれば最下位で終わっていい、弱くていいと言っているわけではありません。コロナのせいで野球があることが当たり前じゃない世の中になった。でも、その何倍も苦しい中で作られた、守られてきたカープがある。燃える赤ヘル、僕らのカープがある。

弱い時によく目にするSNSでの様々な批判は、もしかするとこの‪コロナ禍‬で積み重なったストレスをカープの敗北や采配、打たなかった、打たれた、そういうところに向けてしまっている部分もあるのかもしれません。一喜一憂が一喜十怒くらいになっているのかもしれません。でも私は、広島とカープが歩んだ道、野球がある喜びを胸に抱いて残りのシーズンを楽しみ、それこそSNSでも積極的に応援していきたい。それはカープを残してくれた先輩たちに対しての「恩返し」にもなるはずだ。そう強く信じ、今回のコラムを書かせていただきました。

(※引用元 文春オンライン

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