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プロ野球選手からレモン農家へ…なぜ元広島・戸田は『異例の転身』?

2023年1月16日

プロ野球選手からレモン農家へ…なぜ元広島・戸田は『異例の転身』?

驚くほどにスッキリとした表情をしていた。プロ11年間、2015年には自己最多の34試合に登板し、翌16年にはプロ初完封もマークしている。戸田隆矢は、左肘の故障もあり、2022年オフ、カープのユニフォームを脱いだ。

その野球センスの高さは、左のエースに台頭していても、何の不思議もなかった。

通算95試合、11勝7敗1セーブ。潜在能力からすれば、「完全燃焼」とは言い切れまい。しかし、目の前での口ぶりは実に清々しいものがある。

「僕ね、体を動かすのは得意だし、暑さに強いです。なんといっても、カープの由宇練習場(山口県岩国市)で鍛えられていますから。そもそも、汗をかくことは好きです。仕事しながら汗をかくことって、幸せですよね」

「あの頃から、農業のことが頭にありました」

レモン農家に転身するらしい。

これまでも、セカンドキャリアの話をすることはあった。

「いやいや、野球で夢を見せてよ。ここからだよ」

そう合いの手を入れながらも、戸田の考え方が、少しずつ一貫性を持ち始めていたことも感じていた。

「野球では怪我にも苦しみました。それだけに、『健康』の大切さを感じることは多いです。健康。うーん。トレーニングの知識、栄養のこと。あと、体を動かすことも素晴らしいことだと思います」

こういう会話の中でも、彼は、考えを発酵させているようだった。

しかし、この度の「レモン農家」には驚いた。

友人の一人は言う。

「最初はビックリしました。僕も祖父母が農家でしたが、仕事はとても大変そうでした。お正月も朝は畑に行っていましたし、ノウハウも必要。近くに経験のある人がいて、学びながらやっていくものと聞いたこともあります。何より、祖父母の周囲も、若い農家は少なかったです。でも、純粋に語る戸田くんを、凄いとも思いました」

戸田にとっても、思いつきなどではなかった。左手首の怪我もあり、2017年以降、出場機会も激減。左肘の手術も受け、2021年からは「背番号125」の育成契約となっていた。

「あの頃から、農業のことが頭にありました。オフに、地元(兵庫県)で、農業をやっている同級生を見に行ったことがあるんです。働く姿が楽しそうで、自分は野球をやっていたのですが、元気や刺激をもらいました」

先輩農家が語る戸田の「ポテンシャル」

そこから2シーズン、戸田はプロ野球でプレーした。復活を期待してくれた球団への感謝は尽きない。親身になってくれたスタッフのサポートにも応えたかった。しかし、万全の状態で投げられる試合など、ごく僅かだった。1年1年が勝負だった。1日1日が必死だった。

「このままだと、野球が終わったら、自分には何も残らない」

トレーニングと並行して、自分の内面に問いかける時間も多くなっていった。

そして、2022年10月、戦力外通告を受けた。ただ、戸田の生来の明るい性格は変わらなかった。ささやかな慰労会を設けたが、その場でも、戸田は純粋な目で、「未来」を語っていた。

「やはり、あのときから、人生の選択肢の一つに『農業』はありました。自分で育てたものを食べることができる。しっかり作物を育てれば、食べるものに困りはしないわけですよね。それに、僕は、体を使うことが大好きですから」

そこからの行動は早かった。瀬戸内海を一望できる場所に、土地も借り受けた。戸田は、雑草を抜き、土地を耕し、レモン栽培の一歩を踏み出そうとしている。

ここでも、「チームメイト」に恵まれた。近所の人は、彼を快く受け入れている。

「いつでも連絡してきて」

そんな先輩農家の言葉もありがたい。

指南役も見つかった。近隣の甲斐農園である。レモンの収穫には最短でも3年はかかると聞く。甲斐直樹さんは、その仕事の厳しさも知るが、戸田の「ポテンシャル」も実感している。

「我々の仕事は、体力が基本です。戸田さんは身体能力も高いわけですから、これは大きいです。それに、彼は有名な元・アスリートです。その発信力で広島レモンを広める力があると思います。広島県はレモンの生産量日本一ですから、戸田さんの活動を通じて、全国に知ってもらいたいです。彼ならではのPRや販売の姿は、我々にも刺激を与えてくれるだろうと楽しみにしています」

東広島市安芸津町、海からの陽を受けながら、戸田は土に手をやった。

このあたりは、鉄などのミネラル分を含む、水はけの良い土壌として知られている。安芸津町のじゃがいもは、全国区のブランドである。

プロ11年、「健康」の大切さは痛感している。少年少女に野球も教えたい。歓迎してくれた地域も盛り上げたい。もちろん、カープファンへの感謝の思いもある。

29歳。その鍛え上げた「軸足」は、肥沃な赤土を踏みしめたばかりである。

(※引用元 文春オンライン

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