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高卒2年目・羽月隆太郎、慰めてくれた野間と西川に『恩返し』した日

2020年10月6日

高卒2年目・羽月隆太郎、慰めてくれた野間と西川に『恩返し』した日

涙流れるところにドラマがある。これは、心が折れかけた後輩と親心が芽生えた先輩との絆の物語である。

主人公は、高卒2年目の広島・羽月隆太郎内野手。2018年にドラフト7位で入団した。身長167cmの小兵で、DeNA柴田と並ぶセ・リーグ野手最小。誰よりも大きな声を出すことがモットーで、先輩からのイジリにも何とか爪痕を残そうとするタイプである。努力と根性がよく似合う。

「なに落ち込んでるねん! とりあえずメシ行くぞ」

俊足巧打を売りとし、1年目の昨季はウエスタン・リーグで打率.300を残した。長打は二塁打5本のみながら、バットコントロールと自慢の俊足で非力さを補った。そして、手応えをつかんだまま、意気揚々と初の1軍となる日南秋季キャンプに向かった。

ここで見事に壁にぶつかった。連日の厳しい練習だけでなく、東出打撃コーチらが求めるレベルも高かった。2軍でかすかに抱いていた自信は、あっさりと打ち砕かれた。

練習後、宿舎の食事場に戻ると涙があふれてきた。悔しさと情けなさが入り交じっていた。間違いなく2軍で誰よりも叱られてきた。全てを跳ね返してきたはずの心は、折れる寸前まで来ていた。

悔し涙は、一人でこっそりと流すはずだった。そこに、偶然にも野間と西川が通りかかった。「なに落ち込んでるねん! とりあえずメシ行くぞ」。関西弁の先輩2人は優しかった。目を赤くする後輩を思い、気分転換にと外食に誘い出してくれた。

涙が乾けば、特訓である。翌日の練習後から、野間、西川がコーチ役となっての打撃練習が始まった。素振りのチェックだけではない。ときには映像撮影も手伝ってもらい、反復練習を繰り返した。「お兄ちゃんみたいで本当に優しい先輩」。先輩への恩返しが2年目の目標に加わった。

ひとりで泣いていた野球小僧が、立派な戦力に

時計の針は進んで、2020年8月7日。羽月は、2軍戦打率.327が認められ、初めて1軍に昇格した。「やるしかない」。前夜は緊張で眠れていない。相手先発は、左打者を苦手とする阪神・青柳とあって、昇格即日で「2番・二塁」での初出場初先発が決まった。

当時、西川は1番に固定されており、「8番・右翼」には野間が起用された。この日、野間は今季初先発だった。宮崎・日南でともに打撃練習を繰り返していた3人が先発メンバーにそろったのだ。

デビュー戦で羽月は堂々と主役になった。2回1死一、三塁で、一塁線に転がしたセーフティースクイズが適時内野安打となり、プロ初安打初打点を挙げた。そして、2点差に迫られた5回2死一、二塁。小川のチェンジアップを最後は片手一本で拾うと、前進守備の右翼・福留のグラブをわずかに超える適時三塁打となった。

プロ初長打によって2点が入った。生還したのは、野間と西川だった。2人は本塁ベース付近で手を合わせて喜んだ。秋の特訓を思い起こしたことだろう。ひとりで泣いていた野球小僧が、立派な戦力になったのだ。

試合後、羽月はヒーローインタビューに立っていた。緊張でマイクを握る手も声も震えた。「自分がマツダスタジアムで試合をして、この場に立っていることが考えられなくて……」。怒濤(どとう)のように過ぎた昇格初日。本人も気付かないうちに、先輩への恩返しをかなえていた。

ドラマのようなハッピーエンドでは終わらなかった。8月下旬に西川が故障で離脱すると、羽月と野間も2軍での再調整を告げられて、3人が同時に1軍から姿を消した時期もあった。野間は打撃を修正してすぐに1軍に戻り、今季中の復帰を目指す西川は、地道にリハビリを続けている。そして、羽月も2軍で3割超の打率を残し続けて再昇格のときを待っている。昇格初日の恩返しは、これから長く続く物語の序章。まだ途中である。(河合洋介)

(※引用元 文春オンライン

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