栗林といえば、カープのドラフト1位ルーキーであり、いまや押しも押されもせぬ守護神である。6月13日に惜しくも記録は途絶えたものの、それまで開幕から22試合連続無失点。これはNPBの新人記録であり、カープの球団新記録でもある。いろいろ辛い今年のカープにおける、数少ないポジティブ要素、それが栗林良吏なのだ。
そんな栗林の髪の毛が、疲れたサラリーマンのお父さんのように、妙にペッタリとしている。
確かに、栗林には初々しさがない。実際、カープのレジェンドOBである黒田博樹氏をして、「風格がある。ルーキーを見ているような感じがしない。成熟したピッチャーに見える」と言わしめている。(※1)軍隊ならば、すでに中将くらいのオーラを身にまとっているのだ、栗林だけに。
だからといって、齢25にして髪の毛があんなにもペッタリしていて大丈夫だろうか……と心配して見ているうちに、私はあることに気づいた。
栗林は、ものすごく頻繁に脱帽をするのだ。
おそらく他の選手も、野球帽の下は、汗も相まってペッタリしているに違いない。だが、ほとんど脱帽しないため、それが露わになることがないのだ。
映像に映っている脱帽シーンを全てカウントしてみた
興味本位で、栗林が1試合でどのくらい帽子を脱ぐのか、Jスポーツオンデマンドのアーカイブに残っている彼の登板試合、13試合(2021年6月15日現在)を見て、映像に映っている脱帽シーンを全てカウントしてみた。
すると、13試合でトータル136回、平均して1試合につき10.5回も帽子を脱いでいたのである。
クローザーなので各試合ほぼ1回の登板しかないにも関わらず、平均10回強の脱帽。5月8日のバンテリンドームで1度だけ回跨ぎをしたが、その日はなんと、19回も帽子を脱ぐ様子が映像に捉えられていた。
なお、映像に映っていないところでも脱帽しているはずと、東京ドームで開催された6月19日(土)の対DeNA戦では現地でカウント。2アウトからの登板にも関わらず、栗林はなんと12回も帽子を脱いでいた。なお、この日の球数は13球である。
ちなみに、同じルーキーでリリーフでも活躍する森浦大輔と大道温貴の脱帽シーンを確認してみると、森浦は、アーカイブに残された11試合中わずか5回の脱帽。大道は、先発転向前の12試合中、帽子を脱いだ回数は16回。1試合平均1.3回だった。このことからも、栗林の脱帽回数は群を抜いていることが分かる。そりゃ髪の毛がペッタリしているような印象も残るわけである。
いろいろと種類があった「栗林の脱帽」
ところで、そんな栗林の多すぎる脱帽をカウントしていると、同じ「帽子を脱ぐ」というアクションにも、いろいろと種類があることが分かったのでまとめてみた。
<栗林の脱帽その(1) ルーティーン脱ぎ>
栗林は、ブルペンやベンチを出てマウンドに向かう時、帽子を脱いで深々と一礼する。その直後、内野のラインをまたぐ前にも脱帽し、またも深く一礼。まだ一球も投げていないというのに、すでに2脱帽である。
このお辞儀は、彼が学生時代から続けているルーティーン。礼儀正しい所作を見ると、つい「健闘ヲ祈ル。」と敬礼してしまいそうになるのは私だけではないはずだ。
<栗林の脱帽その(2) 空振り脱ぎ>
空振りを取ると、高確率で帽子を脱ぐ。空振り三振を取った瞬間はもちろん、普通の空振りでも脱ぐ傾向にある。空振りを取るのは、おそらくピッチャーにとってかなりの快感。ほとばしる快感を、帽子を脱いで小出しに解放しているのかもしれない。
<栗林の脱帽その(3) 審判に敬意脱ぎ>
彼の持ち味であるフォークボール。投げるたびに、高確率でボールが地面にバウンドする。その度に、キャッチャーは新しいボールに替えることを主審に要求。主審はキャッチャーを介さず、栗林に直接ボールを投げ渡すことがある。
その時すでに、栗林は帽子を脱いで待っている。受け取ると、もちろん主審に一礼。また、ファールボールを打たれた時にも、審判から直接ボールを投げられることが多いのだが、その際ももちろん、帽子を脱いで審判からの送球を待っている。礼儀正しさがマメなのだ。
<栗林の脱帽その(4) 目上の選手に感謝脱ぎ>
ピンチになり、コーチや内野陣がマウンドに集結するような時。そんな場面でも、栗林は必ず脱帽する。脱ぐのは内野陣が全員集合した時だけではない。例えばショートを守る選手会長・田中広輔は、ピッチャーに頻繁に話しかけに行くタイプだが、そんな時も栗林は必ず帽子を脱いで対応。自分のためにマウンドにやってくる先輩に、栗林は謝意を惜しまないのだ。
<栗林の脱帽その(5) 最終的にはもはやかぶらない>
クローザーである栗林。ビシっと締めると同時に試合は終了する。すると、野手たちがマウンドに集まって勝利を喜ぶ。栗林はもちろん帽子を脱ぎ、野手のみんなと喜びを分かち合う。
その時、ベンチからは首脳陣や選手たちが出てきて一列に並び、笑顔でナインを迎え入れる。選手たちはエアーハイタッチをしながらベンチに戻るわけだが、栗林だけが帽子を脱ぎっぱなしで、選手やコーチひとりひとりに小さく頭を下げながら進む。そして、そのまま一度も帽子をかぶることなく、ダッグアウトに引き上げていくのである。もちろん、ベンチから下がる時に、グラウンドへの一礼を忘れることはない。
栗林の髪がペッタリして見えるのは、栗林がびっくりするほど礼儀正しい男だからだった。
ちなみに、そんな栗林。先輩キャッチャーである會澤や磯村がマウンドに行く時には、もちろん秒速で帽子を脱ぐが、年下の坂倉や石原が相手だと、汗を拭いている時以外はほぼ脱がない。徹底した体育会系の魂、そこもまた、実にいいのである。
(※引用元 文春オンライン)