2017年夏、甲子園で1大会6本塁打の新記録を打ち立てた広陵高の中村奨成は、プロ入り4年で通算43試合の出場にとどまっている。プロ5年目を迎える今年、春季キャンプでは捕手だけでなく、外野に本格挑戦。出場機会を求めて、捕手と外野の二刀流に取り組んでいる。プロで歩んできた道のりと、5年目にかける思いを語ってもらった。
プロ3年目までの自分
── 今年の春季キャンプから本格的に外野に挑戦しています。
「なんとか今年、レギュラーを獲るために。現状、捕手でレギュラーを獲るのが難しいことは自分でもわかっています。外野は(鈴木)誠也さんがいなくなり、(西川龍馬選手の出遅れもあり)現状は空いている。まずは試合に出られるようにそこを狙って、打撃、守備に取り組んでいます」
── 捕手へのこだわりより、試合出場にこだわるようになったのは、昨年一軍で39試合に出場した経験からでしょうか。
「そうですね。それまで3年間はほとんど二軍でしたし、自分でも『いつ上がれるのかな』と不安のほうが大きかった。そんななか、昨年は一軍で39試合に出場させてもらい『やっぱり野球は楽しいな』と思った。一軍の舞台で、あの大観衆のなかで、野球をしたいという思いがよりいっそう強くなりました」
── いま振り返ると、3年目までの自分自身をどうだったと思われますか。
「本気で野球と向き合っていたかと言われると……どこかで『遊びに行きたいな』という思いが少なからずありました。ずっと二軍暮らしで、自分がレベルアップしているとも感じなかった。自分の努力不足だということを、あらためて感じています。そういう経験もあり、昨年一軍の試合に出させていただいたことで、ちょっとずつ自覚が出てきました」
── 精神的に弱かったと。
「甘かったし、弱かったですね。練習しようとしてもやる気にならないし、真摯に野球と向き合えていなかったのかもしれません」
野球に見放されているのかな
── 変わるきっかけはあったのでしょうか。
「やっぱり(鈴木)誠也さんが若手に意識改革を求める記事を見て、奮い立たされました。いくらドラフト1位で入ったとはいえ、甘えた部分は許されない。それに3年目に初めて一軍の舞台を経験させてもらって、やっぱり一軍と二軍の雰囲気は全然違った。ここでプレーしたいという思いが強くなったこともあったと思います」
── 鈴木誠也選手は、中村奨成選手にとってどういう存在でしょうか。
「僕のなかでお手本にしている選手でした。打撃にしろ、外野を守るなら外野守備にしろ、超えなければいけない人だとも思っていました」
── 精神面の成長によって、心技体が整ってきた印象があります。
「入団する時、自分のなかで能力があると思っていたので、『なんとかなるだろう』という感覚があったんです。それが現実を見て『ちょっと無理なんじゃないか』という弱い部分が出てしまっていたのかもしれません。1年目は二軍で思うように結果が出ず。2年目は骨折からスタートして、治ったと思ったら、頭にデッドボールを受けて……『野球に見放されているのかな』と感じることもありました。
3年目は春季キャンプで一軍スタートだったのですが、キャンプ途中に二軍落ちになったことが、めちゃくちゃ悔しかった。それがプロに入って初めて『悔しい』と感じたことだったんです。もっとできるはずなのにと思っていたので、余計に悔しかった。二軍で結果を残そうと思って取り組み、その年に初めて一軍に上げてもらったんです」
── 一軍に初昇格した3年目の2020年はすべて代打で、4打数無安打でした。
「その時も『二軍でこれだけ打ってきたから、一軍でも打てるだろう』と思ってしまった。一軍でも絶対打てるという自信を持っていたので、そこで味わった悔しさから、またちょっとずつ変わっていったところはあります。やっぱり打ちたい、活躍したいという気持ちが強くなりました」
ドラフト1位の重圧はあった
── 広陵時代に甲子園で1大会最多本塁打を記録し、大きな注目を集めて地元広島にドラフト1位で入団しました。重圧はありましたか。
「甲子園で活躍して、プロに入って、1年目は周りからもそういう目で見られていた。正直、それはすごくしんどかったですね。僕は高校1年から全国的に注目された選手ではなく、最後の夏の甲子園でちょっと活躍しただけなので、すごい選手という感覚がない。(1大会6本塁打を)打った事実はあっても、周りが騒ぐような選手じゃないと思っていましたし、ドラフト1位でプロにいける選手じゃないと思っていました。だから、甲子園での活躍をプロでも……と期待されるのはしんどかったです」
── 今年でプロ5年目。また”新しい中村奨成”を見せられる1年になるのではないでしょうか。
「僕のなかではガラッと変わっている。ポジションもそうですし、感覚的に全然違う。それはそれでプラスに捉えています。『捕手で見たい』という声も耳にしますが、僕はどこでもいいから試合に出たい。昨年、今年とその気持ちはどんどん強くなっている。外野でレギュラーを獲って、試合に出れば違うと感じる姿を見せられるのかなと思う。それで『甲子園の輝きを取り戻した』と、そう言ってもらえればうれしいですね」
── 背番号と同じ22年。どのようなシーズンにしたいですか。
「とにかく試合にたくさん出たいです。ポジションにこだわらず、まずは昨年の成績をすべて超えられるように。まずはそこから。とにかく、首脳陣の方に『奨成を使いたい』と思われる選手になりたいと思います」
(※引用元 web Sportiva)