「ユーティリティー」には〝有用〟〝実用性〟〝有益〟などの意味があり、野球では複数のポジションをこなし、打撃に関しては守備位置が変わっても、パフォーマンスが落ちない選手がこれにあたります。
かつては打撃に優れた選手がチーム内に複数いればコンバートしてポジションの調整をしましたが、今は内外野や捕手も兼ねるなどの主力のユーティリティー化も当たり前にもなっています。
でも私のユーティリティーのイメージは多機能高品質で内野でも外野でも複数ポジションを上手に務め、どの打順にも戦術にもはまり、しかも守備固めでも代打でも機能する〝ジョーカー〟のような存在、チームを支え、救う、地味でも光る登場人物です。
ユーティリティーで昨季最も輝いたのは広島の上本崇司です。新井貴浩監督の初年度、CS進出の原動力の1人です。新井体制の中で開幕1軍メンバーとなり、開幕2戦目の代打が初仕事、スタメンでは小園健太の打撃不振をカバーする2番遊撃が最初でした。打順は相手との相性などで6、7、8番を務め、ポジションは遊撃の他に三塁や二塁を守ることもありました。
上本のハイライトは7月です。12日から菊池涼介の休養に伴い1番セカンドで出場するとヒットを重ね、チームも5連勝と上昇モード。しかし実のところはこの連勝の直前に好調の4番西川龍馬が脇腹痛で離脱し不安を抱えていました。苦心のオーダー編成が求められ、左の代打の切り札の松山竜平や疲労を抱える菊池を代役4番としましたが、長続きしませんでした。
『他に誰かいるのか?』と思われたところ新井監督は〝上本4番〟に踏み切ったのです。これが功を奏しました。チームの連勝は止まるどころか加速し、上本4番で5連勝、その前と合わせて10連勝。2桁連勝は1994年以来の快挙、そして7月27日にセリーグ首位に立ったのです。
昨季の輝ける1日に上本は幹(みき)として大いに貢献しました(直後の2位阪神との直接対決で翌日敗れ首位から陥落し、返り咲くことはありませんでしたが…)。
上本が4番に座ったのは西川がけがから復帰する8月6日までの間の12試合、チームは8勝3敗1引き分けの高勝率でした。この間のヒットは12本、全て単打、打点3、打率にすると・267でした。
シーズン成績と同様の傾向を示す内容でした。ということは上本は自然体で挑んだのです。4番の役割とか責任などを重圧として抱え込んでしまう人もいる中で、上本スタイルを貫き、循環する打順という輪の中心で凡打でもつなぐなど新井監督の掲げる全員野球を体現しました。
ヒーローインタビューで『こんなこと言うとなんですけど4番の重圧とか知ったこっちゃないんで、僕は僕らしくやろうかなと思ってます。西川龍馬、早く帰ってきてくれ頼む! この1カ月大事な試合が続くので君がいないと本当にやばいです』。
どこまでもひょうひょうとしています。
プロ11年目、アマチュア時代から常に表舞台で戦い、広陵(広島)時代は2年でセンバツベスト8。選手権で準優勝。3年夏も甲子園出場。東京六大学の明治大に進み1年春から遊撃のポジションを奪い、4年間レギュラーとしてリーグ優勝や明治神宮大会制覇を達成しています。
170センチの小柄ながら大きな存在感を示しました。決して自分の力量や持ち味を見失わず、バットは短く持ち、しかし強く振り選球眼も確かでした。
プロで4番を打つとは思いませんでしたが、勝利への貪欲さが表れていました。粘って投手に多く投げさせ、進塁打の意識が強く、ケースバッティングがさえていました。
新井監督は上本を4番に起用した日『崇司はチャンスメークもできるし、勝負強さもある。だから今日は4番にいってもらった。崇司は本当に素晴らしい。いろんなポジション、いろんな打順をやってくれる。オンリーワンの選手、彼は。信頼しています』と満足げに語りました。
6つの守備位置、8つの打順を全うし代打でも・467。職人の輝きでファンをひきつけた上本は1200万円増の4100万円(いずれも推定)で契約を更改しましたが、査定にはユーティリティーを評価する項目は明確にはないそうで交渉の場で『考慮して評価していただけないかな、ということは言わせていただきました』とユーティリティープレーヤーの地位向上を訴えました。
この発言には私も共感を覚えました。野球に欠かせない存在にもっと光りを当てるべきですね。上本いいぞ! さらなる飛躍を応援したくなります。
(※引用元 夕刊フジ)