元広島の黒田博樹投手がツーシーム(シュート系のボール)をそのように用いることで有名になった、「バックドア」「フロンドドア」という、ボールの使い方がある。
これは、ボールがホームプレートの外側から内側へ入ってくるような軌道で投げる使い方で、右投手が投げるシュート系のボールなら、左打者のインコースに外から入ってくるようなボールが「フロントドア」、右打者のアウトコースに外から入ってくるボールが「バックドア」だ。
もちろん、これはシュート系のボールだけでなく、スライダー系のボールでも使えるので、右投手のスライダーだと、右打者のインコースに外から入ってくる「インスラ」と言われるものが「フロントドア」、左打者のアウトコースに外から入ってくる「外スラ」と言われるようなボールが「バックドア」に当たる。
「インスラ」、「外スラ」の呼び名がすでにあったことからも分かるように、これまでの日本球界でも、こういうボールの使い方をしていた投手はいたことはいたが、それは少数派だった。
基本的には「ボールの軌道は“中から外へ”」が常識であったからだ。そういう意味では「バックドア」、「フロントドア」は、組み立てのバリエーションを増やす意味で、画期的な使い方だというのは間違いない。基本的には打者の頭の中にない使い方なので、ストライクを取ったり、打ち取ったりできる可能性もある。
が、一方で、ちょっと制球を誤れば、非常に怖いボールである、というのも、また間違いのないところだ。
今回、週刊ベースボール(8月6日号「プロ野球魔球伝説」)で、黒田投手の広島復帰後に主にバッテリーを組んだ石原慶幸捕手に、黒田投手のツーシームについてうかがった話が面白かったので、本誌に入りきらなかったところも含め、少しご紹介したい。
まず、キャッチャーならではの視点で、「なるほど」と思ったのは、「バックドア」や「フロントドア」のときは、前のほうで捕らずに、自分の体に近いところで捕るように心がけたというところ。
そうして、アンパイアに「これだけ真ん中に入ってきているんだからストライクでしょ」と見せるわけだ。なかなかに芸が細かい。
リード面では、これはツーシーム全般についての話だったが、「前後のボールとのパターンが同じにならないようにと考えた」というのが、まあ当たり前のようだが、これもなるほど、というポイントだ。
「バックドア」や「フロントドア」は、ある程度相手の予測を裏切ってこそ効果があるのであって、「次は来るだろう」と打者に思われてしまってはやはり他のボールよりは危ないボールになるはずだ。
やはりこれらのボールのサインを出すのは、最初は勇気がいる、ということだった。黒田投手と組んでいるときは特に不安はなかったとのことだが、「試合で使おうと思ったら、よほど自信がないと。黒田さんだからできることで、それをほかの誰かに求めることは難しいことですね」と、石原捕手は言う。
「黒田さんがアメリカから帰ってこられて、受けることができたのはうれしかったですね。こういった新しい観点を教えてもらうことは、自分の勉強にもなるし、新鮮でした」(石原捕手)。
やはりバッテリーというのは相互に影響を与え合い、投手が捕手を育て、また捕手が投手を育てていく、ということが確かにあるもののようだ。
「今はあまりウチにはツーシームを投げるピッチャーは多くないのですが……、もし同じようなことをしようと思うピッチャーがいるなら、その経験は伝えていきますけどね」と石原捕手。今後、この黒田投手のレガシーがカープにどのように伝わっていくかも、楽しみなところだ。(文=藤本泰祐、写真=BBM)
(※引用元 週刊ベースボール)