リーグ3連覇から今季は4位でクライマックスシリーズ出場も逃した広島。シーズン後には、5年間指揮を執った緒方孝市監督が辞任し、佐々岡真司新監督が就任した。現役時代の佐々岡新監督は、1年目から13勝をマークするなどエースとして活躍し、通算138勝158敗106セーブを記録。先発だけでなく抑えとしても活躍し、史上2人目となる先発100勝と100セーブを達成した。
07年に引退後は、地元局で野球解説者を務めた後、15年から二軍投手コーチとして広島に復帰し、今季から一軍投手コーチとなった。チームは4位に終わったが、二軍投手コーチ時代に指導したアドゥワ誠や遠藤淳志らが一軍で戦力になり、チーム防御率は18年の4.12から3.68と改善され、その手腕が評価されている。
球団では1967年の長谷川良平氏以来、53年ぶりの投手出身監督となる佐々岡新監督は、3連覇で黄金時代到来と言われながらBクラスに沈んだチームを再び浮上させる期待を背負っている。成績だけでなく観客動員なども含めて、一時のブームとも言うべき好調な状況から潮目が変わりつつある雰囲気もあるチームで、新監督はどんな野球をするのか。
佐々岡監督とは同郷の島根県出身で、先頃カープOB会の副会長に就任した大野豊氏は言う。
「緒方前監督は、常に投手を含めた守りの野球を提唱していたが、佐々岡もこれを引き継ぐはず。今季のカープはチーム防御率こそ良くなったが、リリーフ陣が機能しなかった。佐々岡には監督就任後に話を聞いたが、まずは投手陣の整備、特にリリーフ投手をなんとかしなければいけないということだった。外国人補強のほかに若手の育成、抜擢で戦力を上げていくことになると思うが、一昨年まで4年間、二軍で投手コーチをやっていた経験が生きると思う。今年も何人か新しい選手が一軍に上がってきたが、監督自身が自分の目で見て、選手の力をある程度、把握しているのは大きいのではないか」
野村謙二郎、緒方孝市と続いた指揮官は、選手だけでなく報道陣など、周囲に対しても厳しい態度でチームを統率していたが、新体制ではやや様相が異なるという。秋季キャンプを取材した担当記者は「雰囲気が明らかに変わっていた」と話す。
「世界野球『プレミア12』もあったので主力選手はほとんど参加していませんでしたが、今年台頭した小園海斗や来季は一軍昇格を狙う2年目の中村奨成などが日々、精進しており、活気のあるキャンプに見えました。投手陣もケムナ誠や山口翔といった来季の飛躍を狙う若手がしのぎを削っていた。全体的に声も出ていて明るい雰囲気でしたが、一番変わったのは練習の合間などに、報道陣に足止めされた監督が何人かの記者たちと談笑していたこと。これは緒方前監督の時代には、あまり見られない光景でした」
コーチ時代から、記者の質問にも誠実に答える姿勢が好評だった佐々岡監督。野球以外の話にもざっくばらんに応対する姿は人の良さを感じさせ、逆に監督としてはその性格を不安視する声もあるが、現役時代から常に身近で接していたという大野氏は、単なる“いい人”ではないと強調する。
「周囲からは人柄が良すぎて監督として大丈夫なのか、と見る向きもあるが、ああ見えて意外に頑固で芯の強い面も持っている。特に自分で決めたことに関しては、絶対に曲げない意志の強さがある。同郷の後輩ということで、現役時代から彼に対しては、特に厳しく言うこともあった。基本的には素直に聞き入れてくれていたが、自分の意見も言うべき時だと思った時は、はっきり言う性格だった。ごく稀にだが、納得がいかずにつむじを曲げると話を聞かなくなることもあったので、そういう面は出さない方がいいと思う。これまではコーチとして、監督のやり方に従う立場だったが、今度は自分自身で決断してやる立場になる。自分の理想を実現するためには、各担当コーチや選手も含めて、しっかりコミュニケーションをとることが一番大事だと思う」
新体制では、新たに横山竜士が一軍投手コーチに就任し、昨季までは三軍など主にファームで指導していた沢崎俊和コーチが一軍に上がった。大野氏は続ける。
「横山は佐々岡とは現役時代に一緒にやっていた仲だし、解説者をやっていた放送局も同じ。性格的に気持ちを前面に出すタイプで、物事をはっきりと言う。今の投手陣に足りない部分を注入するという意味で、彼の野球観や性格は合っていると思うし、いい兄貴分のような存在になれると思う。沢崎はコーチとしての経験は豊富だし、昨年までもある程度、佐々岡と連携してやっていたはず。2人をコーチにしたのは、監督という立場から見て、コーチとして認めている部分も当然あるだろうし、信頼もあるからだろう。やりやすいという点も大きいと思うが、横山はコーチとしての経験がないので、そこだけが心配な点。3人とも選手時代からよく知っている後輩なので、うまくやってもらいたいと期待している。」
今オフは主力選手でFA権を取得した選手が多く、大量流出の不安もあったが、選手会長も務めてチームのまとめ役だった会澤翼と、長年先発ローテを守り続けている野村祐輔は残留した。佐々岡監督は就任直後の最初の仕事として、2人に対して直接電話で残留を要請しており、その誠意が選手に伝わったと見る向きもある。移籍後1年での流出も危惧されながら残留した長野久義も、新監督の残留交渉が功を奏したと言われている。
「選手のチームへの愛着と、監督をはじめとした球団の誠意が残留につながった」と大野氏も評価するが、最後に来季の王座奪還に向けて、ただひとつ残った不安も指摘した。
「ポスティングを申請している菊池涼介の動向がどうなるか。彼1人が残るか、いなくなるかで、状況は大きく変わってくる。選手の権利なので移籍はやむを得ないことだが、もしいなくなった場合は、また何か考えて対策を打たなければならない」
まずは“人間力”で上々のスタートを切った感もある佐々岡新監督。チーム半世紀ぶりとなる投手出身監督の命運はいかなるものになるのか。いずれにしても、来季の“佐々岡カープ”から目が離せない。
(※引用元 デイリー新潮)