佐々岡真司新監督率いる広島が最下位に低迷している。昨年は14勝10敗1分けと“お得意様“にしていた巨人に負け越して借金は「6」。一番の低迷理由はブルペンの崩壊だ。チーム救援防御率の5.23はリーグ最下位。ストッパーは日替わりで開幕投手を務めたエースの大瀬良大地がコンディション不良で2軍落ちするなど投手陣の整備が進まない。かつて広島でコーチを務めたこともある”球界大御所”の広岡達朗氏は、古巣の苦悩を「監督が変わればここまでチームが悪くなるものか」と嘆き「やり方によってはまだ浮上は間に合う」と緊急提言した。
36試合で逆転負けが10試合
開幕前に広島の最下位を予想した評論家はほとんどいなかった。昨年は阪神と最後まで3位争いをして4位に終わった広島がまさかの最下位低迷である。7月14日から巨人に3タテを食らい、リベンジを期した先の東京ドーム3連戦でも1勝2敗と負け越した。象徴的な負けは第2戦。先発の床田寛樹は3回で4失点KO。3番手のケムナ誠が岡本和真に満塁弾を浴びるなど7失点して大敗を喫した。
低迷の原因はストッパーを含むブルペンの崩壊だ。横浜DeNAとの開幕第3戦で守護神に指名していた新外国人のスコットが、ドラフト1位、森下暢仁のプロ初勝利を消し、その後、菊池保則をストッパー起用したが、また結果を出せず、次いで指名された一岡竜司も失敗。7月29日の中日戦では、フランスアを使って成功したが、不安定な日替わりストッパーを象徴するように、ここまでチームのセーブはたったの3つ。菊池、一岡、フランスアが1つずつマークしているだけだ。
チームの先発防御率4.01は、ヤクルトより一つ上回ってリーグ5位だが、救援防御率の5.23は最下位。しかも、逆転負けが10試合。「逆転のカープ」の異名を取って2016年から3連覇したチームが、今や「逆転負けのカープ」である。
1970年に当時の広島監督だった根本陸夫氏に誘われ、広島で内野守備コーチに就任したことがあり、広島へ思い入れのある巨人OBで元、西武、ヤクルト監督の広岡達朗氏は、現在の低迷を嘆いた。
「監督が緒方から佐々岡に変わっただけで、ここまでチームが悪くなるものか。とにかくチームに覇気がない。監督、コーチの価値観が如実に出てしまっている。チームとしてやるべきことができていない。見ていて歯がゆいね」
広岡氏の持論は、「チーム低迷は、監督、コーチの指導不足」というものだが、広島のケースにも、それが重なるという。
緒方孝市・前監督時代に投手コーチだった佐々岡監督が広島では53年ぶりの投手出身監督として指揮権を引き継いだ。キャンプでは佐々岡監督のキャラクターがチームの雰囲気を明るく変えたとの評判もあった。だが、緒方・前監督が率いた5年間で、4位、1位、1位、1位、4位の成績だったチームが指揮官交代と同時に最下位に低迷した。
佐々岡監督は、現役時代にエースとして、先発だけでなく、中継ぎ、ストッパーとフル回転した経験を持つ。本来、得意分野であるはずの、その投手陣が崩れた。昨季52試合に登板したレグナルトが退団した以外には、メンバーはほぼ同じで、確かに”勤続疲労”も見え隠れする。そこをカバーするために新外国人としてスコット、DJジョンソンを補強したが、まだ機能していない。チームが過渡期にあるからこそ監督、コーチの指導力が問われると、広岡氏は声を上げるのだ。
「プロ野球の組織は会社と同じだ。上司が変わると部下も変わる。あれだけ働いていた選手に何かが足りなくなった。マンネリ化しているようにも見える。監督、コーチは一体何を教えているのか。点は取れる。問題は中継ぎピッチャーだ。中崎や今村は、どうしたのだ。故障が原因なのかもしれないが、その故障は、なぜ発生したのか。私にはとても練習を積み鍛えられた体に見えない」
では打開策はあるのか。ブルペンの再構築は可能なのか。
「やり方によっては、まだ浮上は間に合う。まずチームに危機感を持たせ、空気をピリっとさせて全体を引き締めなければならない。監督、コーチは敗因と現状を徹底分析すること。コーチ同士、コーチと選手のコミュニケーションを密にして、何が足りないか、何をすべきかを掘り下げて、もう1度、一からやり直せばいい。抑えも決まっていないが、その可能性のある候補を監督、コーチが我慢して根気強く教えながら育てていくしかないだろう」
広岡氏は、そう檄を飛ばす。
先発では、開幕投手で3勝をマークしていた大瀬良がコンディション不良により離脱。新人の森下に頼る状況だが、援護に恵まれず勝ち星が増えない。ただ野村祐輔が7月29日の中日戦で8回まで無失点の好投、2日の巨人戦では3年目の遠藤淳志が2失点完投勝利するなど先発には少し好材料が揃いだした。
また広岡氏が指摘するようにチーム打率.281、出塁率.346はリーグトップで得点圏打率.274も巨人に次いで2位につけるなど打線に得点力はある。カープらしさを失っていない。11年目に覚醒した堂林翔太が現在打率.357で首位打者。打撃10傑には、.343の鈴木誠也(3位)、.331の西川龍馬(5位)の名があり、4番の鈴木誠也は11本塁打(2位)、31打点(4位)で立派に役割を果たしている。中継ぎさえ再整備されれば、「逆転のカープ」のチームカラーを取り戻すことは可能だ。
元来“辛口”で知られる広岡氏だが、ここまで痛烈なメッセージを広島へ投げかけるのには理由がある。広島は故郷であり、指導者としての第一歩を踏ませてもらった母体であるが、それ以上に「広島こそ球界のモデルケースであるべきだ」との考えがある。
「選手を金で集めてきた巨人とは違い、広島はドラフトで取った生え抜きを厳しい練習量で時間をかけて中軸に育てあげて勝ってきたチームだ。それは野球界の理想であり広島の伝統である。今の若い選手がどう受け止めているかはわからないが、監督、コーチは、その広島の伝統の灯を絶やしてはならない。そういう意味で広島は球界の発展のために勝たねばならないチームなのだ」
広島は今日4日から神宮でヤクルト3連戦。先発には今季1勝2敗の九里亜蓮を立てる。今季は新型コロナの影響で120試合でシーズンが終わる。早く浮上へのきっかけをつかまなければ反撃が間に合わなくなる。(駒沢悟)
(※引用元 THE PAGE)